セキュリティブログ

HITCON2026参加レポート

HITCON2026参加レポート

公開日:2026.09.09 更新日:2026.09.09

こんにちは、グローバル戦略部の林本です。

2026年8月21日から22日にかけて、台北の中央研究院で開催された台湾最大級のセキュリティカンファレンス「HITCON 2026」に参加しました。今年のテーマは「When AI Acts: Hacking the Age of Agentic Systems」。AIが自律的に動き始める時代に、セキュリティの現場で何が起きているのか。2日間で聴講した内容のうち、特に印象に残ったセッションを中心にレポートします。

1日目

1日目のキーノートは、Google Project ZeroのJames Forshaw氏による「Vulnerability Disclosure in the Age of AI」。18世紀ロンドンの錠前師の逸話から始まり、Morris Worm、Bugtraq、Netscapeのバグバウンティ、CVE、Pwn2Own、そしてProject Zero自身が作った「90日ルール」まで、脆弱性開示の歴史を一気に駆け抜ける内容でした。

興味深かったのは、90日ルールが今まさに揺らいでいるという話です。AIエージェントの普及で、ある月には大手ブラウザベンダーが370件、大手OSベンダーが620件超のセキュリティ修正を一度に出す「脆弱性の大量発生」が起きており、AIで簡単に見つかる脆弱性は他の誰かが既に見つけている可能性が高い。だとすれば、これまで通り一律90日与える意味があるのか。Project Zero内部でもこの前提を再検討していると聞いて、ルールは技術の変化に応じて常に見直され続けるものなのだと、あらためて思わされました。

続いて聴いたのは、NECの角丸貴洋氏による「Harmonizing AI Agents and Human Analysts in CTI」。サイバー脅威インテリジェンスの現場で、AIエージェントは若手アナリストの成長機会を奪うのか、それとも助けになるのか。社内アンケートの結果を交えながら、この問いに切り込んでいくトークでした。

アンケートによれば、生成AIの導入で情報抽出にかかる作業時間は平均43%短縮されたそうですが、浮いた時間の分だけ「検証」にかかる時間も短くなったと感じた人はわずか33%でした。処理が速く・たくさん出てくるようになった分、最後にチェックする人間の負担はむしろ増えている、という結果に。また、ジュニア層では42%が「AI活用によって学ぶ機会が減った」と回答しており、これもAI活用を進めるうえで無視できない課題だと感じました。

このほか、TRAPA Securityが主催する「HITCON Mini Cyber Range」というブルーチーム演習にも参加しました。生成AIを使った開発中にうっかり悪意あるパッケージを実行してしまったWindows端末、という設定で、証跡収集から根本原因の特定までを実際に手を動かして体験するもの。ここでもAIを調査支援に使いながら、証跡と仮説を突き合わせていく作業は、キーノートや講演で語られていた「検証コストは思ったほど下がらない」について身をもって味わう時間になりました。

2日目

2日目最初のセッションは、Hiroshi Watanabe氏による「Physical Cyber Authentication (PCA) and engineless PUF」。他の2セッションとは少し違う切り口で、攻撃側の話ではなく「デバイスそのものをどう信用するか」という防御側の基盤の話でした。

PUF(物理的複製困難関数)は専用SoCが必要でコストが高く、安価なIoTデバイスには載せられない。だから攻撃者はPUFなしのデバイスを狙えばいい――この問題を、専用チップ不要な「エンジンレスPUF」で解決しようという提案です。

このエンジンレスPUFによる認証の仕組みは、デバイスの識別だけでなくストレージの信頼性確保にも応用できるとして、ランサムウェア被害からの復旧という文脈でも紹介されました。日本国内のデータでは、被害発生から3週間経っても復旧率は68%にとどまり、25%は復旧不能のまま。「防御側にAIを使わせる前に、そもそもデバイスやデータを信用する仕組みが必要だ」という主張には説得力がありました。

次に聴いたのが、Cisco TalosのPhilippe Laulheret氏による「When your surveillance system is watching you」。大手監視カメラベンダーの製品から見つかった13件以上の脆弱性を紹介しつつ、「これらは今のAIなら自動で見つけられたのか」を実際に検証する構成でした。

DDNS設定に改行を注入して認証済みRCEを取る話、ブロードキャストされる認証パケットに暗号鍵まで同梱されていた話(Blowfishの解読にはAIコーディングツールとの対話を重ねたそうです)、system権限かつASLR無効なサービスの未認証バッファオーバーフロー、200個のエンドポイントに同じ脆弱性が潜んでいたのでAIとMCPサーバーで検証を自動化した話……とネタが豊富で、とても面白かったです。

これらの脆弱性を生成AIで再現できるのか、また効率よく検証できるのかを確かめるため、約200個のエンドポイントを対象に、PoC作成・検証・レポート化をAIとMCPサーバーで自動化したそうです。その結果、検証の網羅性や再現性は明確に向上した一方で、自動化環境の構築には約8時間を要し、ご本人が「自動化しても時間の節約にはならなかった」と率直に振り返っていたのが印象的でした。

2日目の最後に聴講したのは、Trend Micro TaiwanのChiao-Lin Yu氏による「The “Never Gave It Up” Harness」です。NT$278(日本円で約1,400円)で購入したPCI認証済みの決済端末に、監督付きのAIエージェントを試したところ、一晩でroot権限の取得に成功したという内容でした。

ADBの認証コマンドだけが無効化され、接続要求を送るだけでつながってしまう問題、ファイル種別の判定ミスによる署名検証の回避、ディレクトリごとの実行挙動の違いを悪用し、root権限で動く決済プロセスに悪性ライブラリを読み込ませる手口など、単体では致命的に見えない小さな不備を3つ連鎖させてroot権限に到達する流れは、まさに脆弱性チェイニングの好例でした。最後には決済端末上で「Bad Apple!!」(東方プロジェクトの有名なMAD動画)やRickrollを再生してみせるなど、影響の大きさと遊び心が同居した締めくくりも印象的でした。

ご本人の「今回、人間がやったのは電源プラグの抜き差しとボタン操作だけだった」という一言からは、生成AIやAIエージェントによる脆弱性探索とエクスプロイトチェーン構築が着実に進展しており、今後人間に求められる役割は何かを考えさせられました。

2日間を通じて

今年のテーマは「When AI Acts」でしたが、2日間を通じて強く感じたのは、AIが「行動する」ことそのものだけでなく、その結果をどう検証し、何を信頼の基盤とするかが、攻撃・防御の双方で問われているということです。脆弱性はより速く、より大量に見つかるようになった一方で、その真偽や影響を見極める人間の役割は依然として重要であり、むしろ重みを増している場面もあります。来年、このテーマがどのように進展しているのかを楽しみにしています。

シェア
X FaceBook
セキュリティ診断のことなら
お気軽にご相談ください
セキュリティ診断で発見された脆弱性と、具体的な内容・再現方法・リスク・対策方法を報告したレポートのサンプルをご覧いただけます。

関連記事

経験豊富なエンジニアが
セキュリティの不安を解消します

Webサービスやアプリにおけるセキュリティ上の問題点を解消し、
収益の最大化を実現する相談役としてぜひお気軽にご連絡ください。

疑問点やお見積もり依頼はこちらから

お見積もり・お問い合わせ

セキュリティ診断サービスについてのご紹介

資料ダウンロード