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Black Hat USA 2026 Arsenal参加レポート:Azazel-Edgeを発表してきました

Black Hat USA 2026 Arsenal参加レポート:Azazel-Edgeを発表してきました

公開日:2026.08.28 更新日:2026.08.28

こんにちは。ディフェンシブセキュリティ部 SOCイノベーション課の杉田です。

2026年8月1日から6日にかけて、アメリカ・ラスベガスのMandalay Bay Convention Centerで開催された「Black Hat USA 2026」に参加してきました。Black Hat USAは1997年から続く歴史あるセキュリティカンファレンスで、世界中の研究者や実務者が最新の攻撃手法や防御技術を持ち寄る場です。


Convention Centerから見たMandalay Bay

今回私は、Black Hat Arsenalにて「Azazel-Edge: Deterministic Edge Decision Support for Constrained SOC/NOC Operations」というツールを発表しました。公式スケジュールでは、8月5日水曜日10:10から、Business Hall内のArsenal Station 04での発表として掲載されています。

本記事では、Black Hat USA 2026の現地の様子と、ArsenalでのAzazel-Edgeのデモ、前回発表したAzazel-Piからの変更点、そして参加者から得られた反応について紹介します。

Arsenalエリア入り口の様子

Black Hat Arsenalとは

Black Hat Arsenalは、セキュリティ研究者やオープンソースコミュニティの開発者が、自身のツールを参加者に直接紹介する場です。

通常の講演形式とは異なり、Arsenalでは参加者が各ステーションを自由に回り、興味を持ったツールの前でデモを見たり、発表者に質問したりします。スライドを順番に話すのではなく、実際にツールを動かしながら、相手の関心に合わせて説明していく形式です。

なお今回のUSA Arsenalでは、当日のライブデモに加えて事前録画デモの提出が必須でした。私の場合、提出期限は7月23日でした。当日の通信環境や機材トラブルに左右されないための運用だと思います。これから応募を検討される方は、「当日デモができれば良い」ではなく「英語のデモ動画を事前に作り切る必要がある」という前提で準備を進めるとよいかと思います。

Azazel-Edgeについて

今回発表したAzazel-Edgeは、Raspberry Piをベースにした、制約のあるネットワーク向けのSOC/NOCゲートウェイです。

想定しているのは、クラウドにつながらない、SIEMもない、専任のアナリストもいない、といった環境です。臨時に立ち上げた拠点、イベント会場、災害時の現場のようなネットワークが該当します。こうした場所は「重要ではないから守らなくてよい」のではなく、むしろ不安定な状況にありながら、判断だけは即座に求められます。

Azazel-Edgeの特徴は、攻撃を即座に遮断することを前提にしていない点です。遅らせる、囮へ逸らす、観測を続けるといった選択肢を持たせています。遮断してしまえば安全ではありますが、相手が次に何をするつもりだったかは見えなくなります。制約のある現場では、その視界が次の判断の材料になると考えています。

図:Azazel-Edgeの全体像

ツール自体は、私が個人の研究として開発し、MITライセンスで公開しているものです。ただ、そこで扱っている「人も情報も足りない現場で、どう判断を成立させるか」という問題意識は、日々の業務で向き合っているものと地続きにあります。

Azazel-Edgeがやっていることは、大きく3つです。現場で観測したことを取り込み、対処をひとつ選び、その理由を記録に残す。この3つだけです。

図:観測する、決める、記録に残す

デモで見せた流れ

Arsenalでは、内部実装を細かく説明するよりも、判断がどう決まるのかという流れが見えるようにしました。今回のデモでは、次のような流れを見てもらいました。

通信やログのイベントを取り込む
 ↓ 
ネットワークの健全性(NOC)と脅威(SOC)を、それぞれ別に評価する
 ↓ 
5つの限定された行動から、1つだけを選ぶ
 ↓ 
選んだ理由と、選ばなかった理由を記録に残す
 ↓ 
同じ入力なら、何度実行しても同じ決定になることを確認する

図:決定ループ。AIは決定の後段に置いています

選択できる行動は、observe(記録と監視の継続)、notify(運用者への通知)、throttle(止めずに遅らせる)、redirect(囮へ誘導)、isolate(切り離し)の5つです。このうち1つだけを、あらかじめ決めたポリシーに従って選びます。

今回のデモで特に見せたかったのは、選ばなかった選択肢が記録に残るという点です。

たとえばデモで使用したシナリオのひとつでは、NOCがdegraded、SOCがcriticalという状態に対して、throttleが選択されました。このとき記録には、throttleを選んだ理由と根拠になった証拠のIDに加えて、redirectとisolateが条件を満たさずに却下されたこと、observeでは対処として不十分だったことが残ります。

システムが最も強い手段に手を伸ばさなかったこと、そしてその理由が記録に残ること。事後に「なぜあのとき遮断しなかったのか」を問われる立場の運用者にとっては、この記録があるかどうかで説明のしやすさが変わると考えています。

デモでは入力の異なる3つのシナリオを実行し、それぞれthrottle、notify、observeと決定が変わることを見てもらいました。同じ入力・同じ設定であれば、何度実行しても同じ決定になります。

ブースに置いた実機

前回のAzazel-Piから変わったところ

Azazel-Edgeは、イベントごとに作り直しているわけではありません。ひとつのコアがあり、カンファレンスごとにコンセプトを切り替えて見せるという方針を取っています。

前回は2026年4月、シンガポールで開催されたBlack Hat Asia 2026で「Azazel-Pi: Offline Edge-AI SOC/NOC Gateway with Mock-LLM Scoring and Ollama Fallback」を発表しました。このときは、オフライン環境で動くローカルLLMによる補助判定を前面に出した構成でした。

前回のレポートはこちらです:Black Hat Asia 2026 Arsenal参加レポート:Azazel-Piを発表してきました

今回のUSA 2026では、同じコアのまま焦点を移しました。決定論的であること、説明できること、後からレビューできることを中心に据え、AIを「決定」から明示的に外しました

これはAIを使うのをやめたという意味ではありません。決定の権限から外した、ということです。AIは要約や助言はできますが、決定そのものは行いません。決定は決定論的な機構が行い、AIはその後段に置かれた補助という位置づけにしました。

なぜこの変更を行ったのかというと、理由は運用側にあります。制約のある現場で必要なのは「賢い判断」よりも「後から検証できる判断」だと考えたためです。出力が確率的に揺れる限り、同じ入力から同じ結論を再現できません。それでは監査に耐えません。であれば、決定そのものは決定論的な仕組みに任せて、AIはその外側で人間の理解を助ける位置に置くほうが妥当だと判断しました。

前回のAsiaでの発表を見てくださった方には、この変更点がいちばん伝えたい部分でした。発表資料でも、この移行を専用のスライド1枚として用意していました。

会場とStation 04の様子

まず驚いたのが、会場の広さでした。

Arsenalのブースは、前回のBlack Hat Asia 2026とも、昨年のラスベガスとも違い、明らかに広く取られていました。ステーション同士の間隔にも余裕があり、参加者が立ち止まっても通路を塞ぎません。これまで参加したArsenalの中では、最も広く感じました。

Arsenalブースの様子

ブースの広さは、そのまま説明のしやすさに直結します。手元の画面を一緒に覗き込んでもらえるか、複数人に同時に話せるか、少し下がって全体を指し示せるか。こうした動きができるかどうかで、伝わり方が変わります。今回はその点でかなりやりやすい環境でした。

参加者からの反応

今回のArsenalで、会期を通じて最も多く受けた質問は、これでした。

「それで、これは何をするツールなんですか」

ブースでも聞かれましたし、会期中の交流の場——デモ機もスライドもない、ただの立ち話の場でも、同じことを聞かれました。

もちろん、そのたびに説明はしました。決定論的であること、NOCとSOCを分けて評価すること、却下した理由まで記録に残すこと。関心を持っていただけた方も多く、記録の構造については具体的な質問もいただきました。

ただ、同じ質問を繰り返し受けたことは、あとから考えると重要なサインでした。この話は次の節に書きます。

説明中の様子

もうひとつ、印象に残っている場面があります。

ブースに日本の方が集まったタイミングがあり、その場では日本語で説明しました。ラスベガスの会場において日本語でプレゼンをするというのは妙な感覚でしたが、これは今回の思い出のひとつです。

正直に書くと、日本語で話したときのほうが、テーマについてはるかに詳しく踏み込めました。慣れない言語だと、どうしても説明が要点の羅列になります。母語であれば、背景も、迷った過程も、限界も話せます。同じことを話しているつもりでも、伝わる密度が違うと感じました。

なお、日本からBlack Hat USAに参加している方は、思っているより多くいます。海外カンファレンスというと単身で乗り込むイメージを持たれるかもしれませんが、実際には会場で日本語が聞こえてきますし、ブースに立てば日本の方が声をかけてくれます。これから応募を考えている方には、この点もお伝えしておきたいと思います。

Arsenalで発表して感じたこと

今回、いちばん反省したことを書きます。

Azazel-Edgeでの登壇は、足掛け2年でこれが4回目になります。回を重ねるごとに、準備の焦点は自然と「前回からどう変わったか」に寄っていきました。今回も同じで、資料作成の時間の大半は、Asia 2026からの変更点をどう見せるか、今回のテーマをどう伝えるかに費やしていました。

そして本番のブースで説明しているうちに、気づきました。私は「このツールがそもそも何のためにあるのか」を話し損ねていました。

きっかけは、前の節に書いた質問です。一度なら、その方が前提を知らなかっただけです。しかし同じ問いが、異なる相手から、異なる場面で繰り返される。これは相手の問題ではなく、説明の入口が欠けているというサインでした。

差分の説明自体は成立していたと思います。ただ、その手前にあるはずの「なぜこのツールが必要なのか」「誰の、どの困りごとを解こうとしているのか」が薄くなっていました。継続して見てくださっている方には通じますが、Arsenalのブースに立ち寄る方の大半は、そのツールを初めて見る方です。

考えてみれば当然の話で、差分は前回を知っている人にしか意味を持ちません。一方、目的は誰にとっても必要です。それなのに私は、限られた説明時間を、少数にしか効かない情報の側に寄せていました。

特に応えたのは、ブースの外で同じ質問を受けたことです。ブースには資料も画面もありますが、立ち話の場には何もありません。あるのは言葉だけです。道具の助けなしに、短い言葉でこのツールの目的を伝える説明を、私は用意できていませんでした。

逃げ道を塞ぐ事実もあります。日本語で説明したときも、やはり差分から入っていました。英語より深く踏み込めたにもかかわらず、順序は変わっていません。つまりこれは英語力の問題ではなく、説明の組み立て方の問題でした。

継続してツールを発表している方には、同じ構造の落とし穴があるかもしれません。作っている本人にとって、目的はもはや自明です。何年も考えてきたので、わざわざ言葉にする必要を感じません。むしろ「去年と同じ話をしている」と思われたくない気持ちも働きます。その結果、自分にとって新しいこと(差分)と、相手にとって必要なこと(目的)を取り違えてしまいます。

もうひとつ書いておきたいのは、この反省は資料を作っている段階では一度も出てこなかったということです。

スライドは何度も見直しました。構成も順序も文言も検討しました。それでも、目的の説明が薄いことには気づきませんでした。気づいたのは、人の前で話している最中です。相手の反応が返ってきて、質問が飛んできて、初めて自分の説明の形が見えました。

これはArsenalという形式でなければ起こらなかったと思います。壇上から一方向に話す形式では、聞き手が何を分かっていないかは最後まで分かりません。一対一で、相手が入れ替わりながら対話し続けるからこそ、説明の欠けている部分がその場で繰り返し見えてきます。

体力は使います。立ちっぱなしで話し続けるのは、講演より確実に消耗します。ただ、開発者が自分のツールについて得られるフィードバックの密度は、この形式が圧倒的に高いと感じました。Arsenalに応募する価値は、採択の実績や露出だけではなく、ここにあると思います。

次回に向けて決めたことは2つです。1つは、冒頭で目的を述べて、差分はその後に置くこと。もう1つは、資料の助けなしに口頭だけで通じる、目的を説明する短い文を用意しておくことです。ブースの外で通じない説明は、ブースの中でも本当は通じていないのだと思います。

日本語で説明している時の様子

ツールの制作について

もう一点、補足しておきます。

Azazel-Edgeの実装も、Arsenalの発表資料も、応募したCFPも、私はAIを使って作っています。設計を詰める過程や、英語の文章を整える作業も同様です。

念のため区別を書いておくと、これはツールの中身の話ではありません。本文で書いたとおり、Azazel-Edgeの決定にAIは関与しません。AIを使って作ることと、AIに判断させることは別の話です。私は前者を採用し、後者は設計として外しました。

そのうえで、個人的な実感を書きます。AIの台頭についてはセキュリティ業界でもさまざまなことが言われていますが、私個人にとっては、AIのおかげで自分のアイデアを形にできるようになった、というのがいちばん大きな変化です。

これまでは、思いついても諦めていたものが数多くありました。実装力が足りない、時間がない、英語で書けない。そうした理由でアイデアのまま消えていったものです。それが形になるようになりました。可能性を持ったままの「0」を「1」にできる、という感覚があります。Azazel-Edgeも、以前の私であれば着想の段階で消えていた可能性が高いツールです。

このテーマについては、別の記事で改めて書きたいと思っています。

おわりに

今回も、Black Hat USA 2026 ArsenalでAzazel-Edgeを発表できたことは、貴重な経験でした。

決定論的であること、選ばなかった理由まで記録に残すこと。この主張自体は、想定していたよりも関心を持ってもらえたと感じています。一方で、その手前にある「何のためのツールなのか」という説明が抜けていたことに気づかされたのは、今回いちばんの収穫でした。ツール自体は選ばなかった選択肢まで記録するのに、作った本人は前提の説明を省略していたわけです。

次回に向けては、資料の構成を目的から始まる順序に見直し、口頭だけで伝わる説明を用意しておきたいと思います。

Azazel-Edgeは今後も、ひとつのコアに対して複数のコンセプトを切り替える形で開発を続けていきます。次にどこで発表するかはまだ決めていませんが、現場から返ってきたフィードバックを設計に反映し、思いついたものは実装して試していきます。機会があれば、また応募したいと思います。

ツールはMITライセンスで公開しています。Issue、Pull Request、そして「自分の現場ではこの判断は成立しない」というご指摘をお待ちしています。

リポジトリ:https://github.com/01rabbit/Azazel-Edge

余談:Arsenal登壇の特典について

最後に少し余談を書いておきます。Arsenalに登壇すると、発表そのもの以外にもいくつか特典があります。

まず、会期中の朝食と昼食が用意されます。ちょっとしたことですが、会場を離れずに済むのは地味にありがたいものでした。

また、Arsenal登壇者はすべてのブリーフィング(講演)を聴講できます。通常の参加枠とは別に付与される権利で、気になるセッションを気軽に覗きに行けました。

さらに、VIPパーティへの参加権もあります。レビュワーの方々や他の登壇者と直接話せる場で、ブースでの立ち話とはまた違う、少し落ち着いた雰囲気でのネットワーキングができました。

グッズとしては、Arsenalのロゴが入ったTシャツかキャップのどちらかを選んで受け取れます。加えて、Arsenalのチャレンジコインも手渡されました。

Arsenal登壇者特典一式(バッジ、キャップ、Tシャツ、チャレンジコインなど)

金額に換算すれば大きなものではないかもしれませんが、登壇者だけが体験できる時間や場が用意されているのは、Arsenalという形式ならではだと思います。次回応募を考えている方の参考になれば幸いです。

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