
サプライチェーンセキュリティ対策|委託契約の12の重要ポイント
はじめに
こんにちは、ディフェンシブセキュリティ部CSIRTアシスト課の小林雅哉です。
近ごろ、お客様から「サプライチェーンセキュリティ対策」のご相談をいただく機会が増えています。 IPAによる発表でも「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」は上位にランクインし、被害件数も増加傾向にあるなど、サプライチェーンセキュリティ対策の優先度は極めて高い状況です。
サプライチェーンセキュリティ対策に取り組むにあたって、技術面や統制面における対応はもちろん重要です。ただ、忘れてはならないのが「委託契約」における対応です。いくつかのインシデントでは、委託契約にてセキュリティ事項の理解と合意ができていなかったことが指摘されています。このように「委託契約」における対応も喫緊の課題の一つといえます。
課題が明らかである一方で、「委託契約で何をどのように書くべきか」の情報はまだ不足しています。そのため、本ブログでは委託契約にたずさわるご担当者様に向けて、英国国家保護安全保障局(NPSA)公開のSupply Chain Guidanceから委託契約の12の重要ポイントを解説します。
本ブログのユースケース及び免責事項
委託契約にセキュリティ事項を明記する場合や委託先とセキュリティ事項を調整する場合などに参考としてお使いください。ただし、法務部門などから法的観点のチェックを必ず得るようにお願いします。
本ブログで翻訳し、解説している内容は正確性の確保に努めておりますが、いかなる保証もしません。また、情報の利用によって何らかの損害が発生した場合でも、弊社は一切の責任を負いません。
委託契約の12の重要ポイント
本ブログでは、12の重要ポイントを「履行と免責」「情報通知」「監査と証跡」「事後処理」という区分で整理しています。まずは、全体像を把握していただき、気になる区分やポイントがあれば優先的にご確認することをお勧めします。

セキュリティ対策の履行と免責
1.必要基準への準拠・改善
セキュリティ対策が必要基準を満たさない場合、改善策と実施期限を明らかにすること
2.対策責任の免責除外
「必要基準を満たすセキュリティ対策の実施責任」は免責としないこと
このような対立を避けるためには、そもそもサイバー攻撃を免責としないことが挙げられますが、昨今の高度化するサイバー攻撃や社会不安の増加という状況を踏まえると、この対応は困難であるはずです。そのため、サイバー攻撃を免責に含まざるを得ない場合には、「必要基準を満たすセキュリティ対策の実施責任」は免責としないこととし、「ここまでは委託先で責任を持つべきである」という免責上の線引きについて、合意を図る対応が望まれます。
セキュリティ状況の情報通知
3.対策状況の変更
事前回答したセキュリティ対策に変更が生じた際には、遅滞なく必ず通知すること
4.組織・環境の変更
セキュリティ状況に影響がある組織や環境に変更が生じた際には、遅滞なく必ず通知すること
5.オフショア化
共有した情報資産の取り扱いでオフショア化が生じた際には、遅滞なく必ず通知すること
6.M&A・投資行為
既存事業に重大な影響があるM&Aや投資行為などがあった際には、遅滞なく必ず通知すること
7.業務の再委託
再委託先が存在し、重要資産を取り扱う際には、遅滞なく必ず通知すること
8.侵害・脆弱性検知
セキュリティ侵害や脆弱性を検知した際には、遅滞なく必ず通知すること
セキュリティ状況の監査と証跡
9.セキュリティ対策の違反
事前合意したセキュリティ対策に違反が生じた際には、その都度の監査を受けること
10.インシデント発生・契約変更
インシデント発生や大幅な契約変更があった際には、その都度の監査を受けること
11.事前合意の遵守・証跡
セキュリティ対策の事前合意を遵守していることを証跡として提出すること
契約終了に伴う事後処理
12.資産回収・セキュリティ対策の実施
「回収(返却)する資産」と「実施するセキュリティ対策」が詳細と共に明記されていること
実施するセキュリティ対策では、情報の削除や権限の無効化などの回収資産に対する付帯作業を明確化することが必要です。実施方式によっては、状態の復元が容易であるため回収資産の重要度なども考慮し、削除や無効化における実施方式を選択します。
まとめ
本ブログでは、委託契約の12の重要ポイントを解説しました。委託契約のなかでセキュリティ対策の観点を明らかにし、建設的な話し合いを進めることで、互いの理解不足や責任放棄といったサプライチェーンセキュリティ対策における根本的な問題の解消が期待できます。本ブログが、適切な委託契約による強固なサプライチェーンセキュリティ対策を実現するための一助となれば幸いです。
弊社ではCSIRTやセキュリティ担当部門に向けて、委託契約におけるセキュリティ基準の作成を含め、セキュリティインシデントに備えた組織づくりなどをご支援しています。お気軽にお問い合わせください。